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October 20, 2006

10月20日(金)成田屋と沢潟屋

 11月の新橋演舞場では、海老蔵が「四の切」の忠信で宙乗りを披露する。報道されたところでは、海老蔵は、病気で舞台への出演がかなわない猿之助のところへ行き、役に取り組む上での心構えなどを教えられたという。忠信の宙乗りといえば、猿之助の十八番だが、二人のそうした出会いには、長くて深いドラマを感じる。

 猿之助の沢潟屋は、成田屋の弟子筋にあたる。ただ、勝手に「勧進帳」の弁慶をやったとかで、破門になったという因縁がある。ところが、猿之助が病に倒れる前、その甥にあたる亀治郎が、私的にも親しい間柄の海老蔵が襲名するということで、叔父の下を離れたという経緯があった。猿之助はそれを快く受け入れたとされているが、想像するにその胸中はかなり複雑なものだったのではないか。今回の海老蔵の猿之助への挨拶は、そうした出来事があったことを踏まえてのことかもしれない。

 しかも、海老蔵は、「出口のない海」では、猿之助の息子、香川照之と共演した。その特別試写会は、歌舞伎座で行われ、舞台に立った香川は、海老蔵のおかげで、ようやく歌舞伎座の舞台に立てたと挨拶したという。もし、猿之助が離婚せず、香川を跡取りとして育てていたら、あるいは、今のように右近以下の歌舞伎の家に生まれたわけではない若者たちを育ててはいなかったかもしれない。7月の歌舞伎座では、玉三郎の演出のもと、その若手たちが海老蔵と共演した。

 亀治郎の父、段四郎は、息子に続いて兄のもとを離れたが、海老蔵襲名の口上で、こうした場に列座できることの喜びを繰り返し述べているのも、背景には複雑な物語があるからだろう。今の歌舞伎界は、勘三郎に言わせれば、歌舞伎を100年安泰にする海老蔵の出現で、それを中心に動いている。歌舞伎俳優なら、誰でも海老蔵と共演したいだろう。そうした地殻変動のなかで、成田屋と沢潟屋との関係にも大いなる変化が起こっている。こうした点も、ある意味歌舞伎の楽しみ方の一つではないか。

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