10月25日(土)金融恐慌に見る近代の終焉
問題は制度なのだと、ふと今日考えた。近代の社会においては、さまざまな制度が作られ、それによって人々の暮らしは安定し、安全なものになってきた。制度にはさまざまなものがあり、どこまでをその範囲に含めるか、それを決めるのは難しいが、たとえば、健康保険制度などは代表的なものだろう。日本では国民皆保険ということで、医者にかかる場合、保険で診療してもらうことが原則になっている。たしかに、保険制度があるおかげで、安い費用で高度な医療を受けることができる。私も、5年前に入院したとき、高額な医療にかんしては金が戻ってくる仕組みになっていたので、治療費自体はそれほどかからなかった。それは、ありがたいことではあるのだけれど、考えてみれば、相当に虫のいい話だ。
所得によって保険料はあがるものの、個々の診療ということに関しては、患者の負担は小さい。ということは、健康保険制度を維持するためには、少ない費用で高度で高額な医療が受けられるという仕組みがないといけない。もし、今保険制度が存在せず、新たに制度を作ろうとしたら、とてもそんなものはできないし、夢物語だと言われるに違いない。夢物語が可能だったのは、やはり人口の増加が前提になっていて、それほど医療費を使わない若い背だが保険に加入し、その保険金で全体をまかなう。そうした仕組みが作られたわけだ。
これは、おそらく、健康保険制度だけではなく、年金制度ももちろん、制度全般に言えることで、少ない費用で多くの見返りという制度が作られてきた。ところが、前提が人口の絶えざる増加にあるとすれば、人口の増加が小さくなったり、人口が減少に転じたら、とたんに制度は破綻する。当然のことだろう。そのときどうするか。一つは負担を増やすということで、もう一つは、税金を投入することだ。ところが、他の制度も税金によって支えられ、その税金の仕組みというか、国家の仕組みが、人口増を前提にして組み立てられている以上、今のようになれば、全体が壊れざるを得ない。
それは、公的な制度や国家だけではなく、社会全体にいえることで、人口の増加、生産力の向上などが実現されないと、全体がうまく動かない。国内でそれに必要な金がなければ、海外から調達してこなければならないが、それにも限界がある。これは、日本だけではなく、世界全体に共通して言えることで、資本主義が市場の無限な拡大を前提としている以上、あらゆる手段を使って市場を拡大するとともに、最後は、まさにマルチ商法やねずみ講に近い金融資本主義に頼るしかない。制度を支えるための金を求めて、金融市場が膨らんだが、それがマルチ商法やねずみ講と本質的に変わらない以上、どこかで破綻する。
制度の発達が、近代の産物なら、今回の金融恐慌は、近代の終わりを意味することになる。だから、株価の下落は止まらないし、あっという間に投資資金が泡と消えたため、投資のための資金をもっている人間や機関が一挙に消滅した。それでは下落を止められないし、とまらない。あらゆる対策は意味をなさない。やがてそれは、制度の崩壊という方向に向かうのではないだろうか。恐ろしいことだ。
制度はたしかに便利で、私たちはそれに頼ってきた。というか頼りすぎてきた。制度があるがゆえに、自分たちで生活を安全なものにする努力を怠ってきた。単純なことだけれど、昔は産科がなくても、子どもは生まれた。制度ではない力を、個々の地域社会が養ってきた。おそらく、これからは、自分たちで自分の身を守るために、ネットワークを作り上げていくことをしないといけないのではないか。宗教はこころの支えになったり、結束の軸にはなるが、実際的な役には立たない。
あくまで制度に頼ろうとすれば、社会を全体主義化していかなければならないが、それは無理だ。実際、社会主義はつぶれた。今の資本主義は、社会主義的な方法を取り入れることで、市場や資本の暴走を食い止めてきたが、やはりそれも無理だったことになる。ベルリンの壁の崩壊は、社会主義の終わりではなく、近代の終焉を意味したのかもしれない。
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