10月10日(土)柄谷行人さんの『捨てられる宗教』についての書評
柄谷行人さんが『捨てられる宗教』の書評を朝日新聞の書いてくれました。
捨てられる宗教 葬式・墓・戒名を捨てた日本人の末路 [著]島田裕巳
昭和時代に、日本の各宗教団体は信者の数をのばしていたが、平成時代以後、急激にその数が減った。神道系も仏教系も、それ以外の新興宗教も同様である。そのため、葬式をせず墓も作らない人たちが急増している。しかし、これは日本だけの現象ではない。おそらく世界中で、イスラム教をのぞいて、どの宗教も衰微している。イタリアやフランスでも、カトリックの信者が激減した。
従来、このような変化は、農村共同体から資本主義的な都市社会への移行によると見られてきた。しかし、その具体的な調査検証は難しい。まして、海外に関してはわからないし、比較することも難しい。著者はそれを見直す鍵として、死生観の変化に、またその原因として、平均寿命の変化に着目した。
死生観は二つに分けられる。第一に、死生観Aは、平均寿命の短い時代である。その場合、いつまで生きているかわからないから、人は不安であり、同時に、死後への期待ももつ。第二に、死生観Bは、平均寿命が延びた時代、つまり、高齢化社会に固有の見方である。死生観Aが強い社会では、共同体が強く、自分だけのことではなく、他者のことも重要であった。一方、死生観Bの場合、他者に無関心となる。たとえば、現在世界中で流行しているスピリチュアリズムや自己啓発は、宗教に代わるものともいえるが、これらは極めて個人主義的である。
日本の場合、定年制(65歳)が一般化している。しかし、「人生110年」と見ていいような時代には、定年後が長すぎるのだ。それがこれまでの死生観を変えてしまう。その結果、旧来の宗教だけでなく、それまで病気治しをうたっていた新興宗教も衰退した。海外でも、イスラム教圏を例外として、類似した現象が見られる。興味深い統計データの一つは、米国で平均寿命が案外短いことである。米国で新興キリスト教が盛んなのはそのせいか。
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